週に一度のペースで、インターネットの動画配信をしている。この仕事をするようになってから、1年以上が過ぎた。
まったくの素人だったぼくが、HDMIケーブルとmini HDMI、micro HDMIの区別、分配器を使うためのインプットとアウトプットの仕組みぐらいはわかるようになり、超基礎的なところは自力で考えてできるようになったのである。
生放送の30分前になると、機材の設定漏れがないだろうか、機材は熱くなっていないだろうかと配信以外の仕事に集中ができなくなる。生放送の5分前は、突然トラブルが起きないかと機材を見守りながら放送が始まる。1年経ったいまでも落ち着かない。
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ぼくたちのこの1年は、機械に対する管理業務が加速化している。Zoomをはじめとするビデオチャットツールによる会議やイベント、SNSやメッセージングアプリのコミュニケーションに、ぼくらの仕事や日常はほぼ完全に置き換えられた。
そこでは、いかに効率よく、トラブルなく機械やサービスを利用できるかが求められている。どの業種であっても、機械操作が基本スキルとして当たり前となった。テクハラという言葉がニュースになるくらいに。
それでも人のマネジメントに比べれば、仕組みを理解して、順番通りに動かせたなら機械のマネジメントの悩みは少ない。
手順さえ間違えなければ、機械はある程度動く。機械に意思や気持ちの機微はないし、生活や給料の悩み、将来の人生設計、仕事におけるキャリアの心配などない。
人のマネジメントは配慮する領域が広い。機械に対してはこのような精神面の尊重、想像するしかないライフスタイルの事情などは考慮せず、物理的に丁寧に扱えば良いと考えると、機械ほどマネジメントが楽なことはない。
人とのコミュニケーションにおいて、Zoom越しやSNSや動画のチャットのコメントなど、機材や配信システムを経由したやりとりが圧倒的に多くなった。時折、対面で誰かと食事をするときは新鮮な喜びを感じる。
対面における新鮮な喜びと、機械を経由した効率的なやりとり。コミュニケーションの質で何かが変わり始めている。以前からぼんやりと考えていたことをより自覚した1年だった。2015年以来、ぼくはSNSで積極的な発信をするのをピタリとやめた。そうしたら、対面のコミュニケーションでずいぶんとおしゃべりになった、例えばそのような質的変化だ。
相手や社会があることを意識して、SNSで発信していたが、SNSの相互コミュニケーションと、対面の相互コミュニケーションは、五感の情報量はもちろん、話しの質までがかなり異なると、当たり前のことを思いなおすようになった。
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コミュニケーションはメディアの変遷によって変わり続けてきた。媒介する何か、接触するメディア、インターフェイスによって、21世紀に生きる人間の行動の変化について、あらためてとらえなおすタイミングではないだろうか。
寄付や署名行動の質的変化が起きているのではないだろうか。ぼくはNPO業界で仕事をしながら考えている。
寄付の本質、署名の本質の解明については、先行する研究者や実践者が多く語ってきており、本質論はそちらに譲りたい。本質ではなく、接触するインターフェイスによる行動の質的変化を見ている。
社会貢献活動に参加する一個人にとって、 対面の街頭募金や署名行動と、ネットや特にスマートフォンによる寄付や署名行動において、寄付の質、署名の質が変わってきているのではないだろうか。
寄付する瞬間、あるいは署名する瞬間に人間の五感を刺激する、接触インターフェイスを3つに分けて、図表を作成した。共通して聴覚の刺激はありつつ、図表の一番右の列「触視=触覚+視覚」について、大きな変容が見えてくる。
非営利組織や社会貢献団体が、寄付や署名活動を洗練させるためのヒントが隠れた図表となった。あるいは、最新と言われている寄付や署名の手法に、納得していない人の違和感が解明される図表ではないだろうか。
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